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最高裁判所第二小法廷 昭和52年(行ツ)18号 判決 1977年5月02日

上告人 久保田喜雄

被上告人 八尾税務署長

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人南逸郎、同藤巻一雄、同佐藤健二の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡原昌男 大塚喜一郎 吉田豊 本林譲 粟本一夫)

上告代理人南逸郎、同藤巻一雄、同佐藤健二の上告理由

一、 「採証法則、事実認定、法令解釈の誤り」

(イ) 上告人が昭和四五年度中に家屋を賃貸するに際し、賃貸人より受領した保証金のうち返還を要しない部分の金員は、上告人の同年度の所得として確定したといえるか否かが本件の唯一の争点であるから、その返還を要しない部分の金員の法的、経済的性格の把握が絶対必要であり、そのためには、上告人と賃借人間の昭和四五年度家屋賃貸借契約の契約内容を正確に確定しなければならない。そして、賃貸借契約の内容を正確に確定するためには、賃貸借契約書丈を形式論理的に理解してそれをもつてのみで契約内容を確定するというのではなく、賃貸借契約書を中心として、その沿革、動機、目的を考慮しつつ、契約書の条項以外に新たな又は補充的な口頭の約束があるか否か、契約の履行が現実にどのように運営されてきたか等を十分考慮しなければならない。

蓋し、契約は当事者の意思の合意により成立するものである以上、契約内容の確定は合意された意思内容の確定であるから、契約書は合意意思の表現、産物として契約内容の確定のための中心的証拠となることは当然であるが、それだからといつて契約書のみが唯一絶対の証拠とされ、契約書のみからしか契約内容を確定しえないとするのは誤りというべきだからである。

(ロ) しかるに原判決は、上告人と賃借人間の賃貸借契約書のみから形式的、論理的に賃貸借内容を確定していて、その沿革、動機、現実の運営、口頭の約束を全く無視している。それは契約書にのみ忠実であつて当事者の合意意思に忠実ではなく、その結論は契約書には一致しても当事者の合意意思従つて当事者の契約履行の歴史とは遊離した結果となつている。

本件の場合、賃貸借契約内容確定のための証拠は、賃貸借契約書と上告人の一、二審における公判廷での供述丈であり、上告人の各供述は契約書条項作成への沿革、条項の目的、口頭約束、契約罎行の状況(特に上告人の契述の通り当事者で合意され且つ履行されている)に及んでいて、他にこれに反する訴訟上の証拠は絶無であるから、賃貸借契約内容は、契約書を中心としつつ、上告人の供述をもつてその不備等を補充したうえ、契約書と上告人の供述をもつて合理的に確定すべきである。

しかも原判決には上告人の供述を信用できないとの記載もなく、勿論上告人の供述を信用できないとする証拠も全く存在していない。

それなのに、原判決は、上告人の供述を全然考慮せずに、契約書のみに基き、その形式的、論理的解釈をもつて賃貸借契約内容の確定としているのである。

しかもその確定された内容は、契約当事者双方が合意に達したものとして現に履行してきた内容とも、またその沿革や動機目的とも反しているのである(上告人の一、二審の供述参照)。

(注) この点、一審判決は、判決理由第二項(一八頁~二一頁)で上告人の供述と契約書により契約内容を確定し、更に判決理由第三項で(二三頁最終~二五頁六行目)にかけて、(イ)法律命令公共事業等止むを得ない理由のため、本物件の使用ができない事由発生したとき、(ロ)賃貸人たる上告人が自ら賃貸借契約の解約の申し入れしたときは何れも保証金全額を返還する約定があつたとの上告人の供述までをとり上げて判断しているのは、その結論には反対であるが、正しい。

もつとも、かように一審判決の如く正確に契約内容を確定し且つそれを検討すれば、その確定した契約内容を前提とした「返還を要しない部分の金員」の性格の一審判決の解釈が誤りであることは、上告人の原審昭和五一年五月一二日付準備書面で詳述した通りである。

かように、原判決は上告人の供述を無視するという採証の法則を誤り、事実認定を誤り、法令の解釈を誤つた結果、賃貸借契約の確定(解釈)を誤つたものというべきである。

そしてその誤つた契約内容の確定(解釈)は、本件の判決の結果に重大な影響を及ぼしていること明らかであるから、原判決を破棄されたい。

以上

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